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たった一人の家族である自分がどんな状況になっても、娘には笑顔でいてほしい・・・『両頬にできるあのえくぼ!昔から大好きなのよね。』

たった一人の家族である自分がどんな状況になっても、娘には笑顔でいてほしい・・・『両頬にできるあのえくぼ!昔から大好きなのよね。』

ありがとう。看護師と患者の物語。34話。ガンが全身に転移してしまった80代の秋川さん。たった一人の家族である娘さんをとても大切にされていましたが、病状が悪化してしまい・・・

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ガンが、全身に転移してしまった80代の秋川さん。
秋川さんは私の勤務していた産婦人科病棟の婦人科に入院しており、40代の娘さんがいらっしゃいました。
娘さんが幼いころに旦那さんを亡くしてから、秋川さんは女手一つで娘さんを育てたそうで、秋川さん、娘さんがお互いにお互いのことをとても大切にされている印象でした。

秋川さん「私の娘のこと分かる?」
私「毎日来てくださる小柄でいつも笑顔の…」

秋川さん「そうそう、あの子!可愛いでしょ?と言っても40歳越えている自分の娘のこと可愛いって親ばかよねぇ。」
私「そんなことないですよ!年上の方のこと可愛いっていうの失礼かもしれないですけど、可愛らしいなって思ってましたよ。」

秋川さん「ありがとう。特にね、両頬にできるあのえくぼ!昔から大好きなのよね。」
と言って自分の両人差し指を立てて、両頬をつつき、えくぼのジェスチャーをしました。

秋川さん「ほら、噂をすれば来てくれた!私のえくぼちゃん!」
病室に娘さんがいらっしゃいました。

娘さん「えくぼちゃん?私のことでしょ?もうお母さん、やめてよ恥ずかしい。ごめんなさいね、看護師さん。」
私「いいえ。秋川さんは娘さんのことが大好きみたいでその話を聞いてました。」

娘さん「また…。」
秋川さん「いいじゃない!えくぼちゃん!」
と、また少し娘さんのことをからかうように、秋川さんはえくぼのジェスチャーをしました。

しかし、それから1か月もしないうちに秋川さんの容態は悪化してしまいました。
疼痛コントロールが出来ず麻酔を使用するようになってから、自分の意志で身体を動かすことはおろか意識も朦朧としていました。

そんな時、医師から緩和ケア病棟へ転棟する話を伝えられました。
医師「緩和ケア病棟の方が手厚く看られるんです。しかし、緩和ケアの病棟は空きを待っている患者さんが多いので、すぐに転棟するのは難しいと思いますが…。」
娘さん「緩和ケア病棟ですか…。」

娘さんは腑に落ちない様子でした。

しかし、秋川さんの容態はさらに悪化していく一方で、転倒の話があった1週間後には「すぐには入れない」と言われていた緩和ケア病棟への転棟が決まりました。

荷物をまとめて転棟する準備をしていた娘さんの目には涙が浮かんでいたので、私は話しかけに行きました。

私「大丈夫ですか?」
娘さん「…緩和ケアってもう治療することができない人が行くところですよね?すぐには入れないと言われていたのに何でこんなに早く…。そんなに優先順位が高いの…、お母さんはいつ逝ってもおかしくない状態なんですか?だったらそんな病棟行きたくないです!」

私「そんなことないです。緩和ケアは看取る場所だけではありません。病棟全体がゆっく
りとした時間が流れていて、現在の病棟より秋川さんも落ち着いて過ごせる空間だと思いますよ。」

娘さん「でも、もう死期が近いことを暗示していますよね。私、お母さんが亡くなったら1人になってしまうんです。もう誰も家族がいないんです。まだまだお母さんには生きていてもらわないと困るんです。」

私が返答に困っていると、もうほとんど自力で動けない、喋れないはずの秋川さんがうなり
始めました。

娘さん「どうしたの?どこか痛いの?先生呼ぼうか?看護師さんもいるよ?大丈夫?」
すると、秋川さんはゆっくりと左手を動かし微かに人差し指を立て、自分の頬の方へ持っていきました。

娘さん「なに?どうしたの?」
私「…。えくぼちゃん?えくぼちゃんってことですか?」
秋川さん「うぅぅ…。」

すぐに手を下してしまいましたが、秋川さんは確かにえくぼのジェスチャーをしました。

娘さん「えくぼちゃん…私のこと?」
私「そうですよ、きっと。秋川さん、娘さんのえくぼ大好きって前に言っていたじゃないですか!笑っていて欲しいんじゃないですかね?」

娘さん「そう…。お母さんごめんね。お母さんは全部聞こえているんだよね、見えているんだ
よね。お母さんはまだ死なないよ。私、笑顔でいるからもっと長生きしてね。」

それから緩和ケア病棟に移り、1か月もたたないうちに秋川さんは亡くなってしまいました。

緩和ケア病棟で働く看護師に話を聞いたところ、最後まで娘さんは笑顔で秋川さんの介護を楽しみながらしていて、緩和ケア病棟で看取れてよかった、最後の時間を大事に過ごせたとおっしゃっていたそうです。

イラストレーター紹介

イラストレーターのオカ サヤカと申します。
温かいイラストで、皆さまの素敵なエピソードを彩ることができていたら幸いです。
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