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「もう逃げない、絶対にうまくなる」患者さんの優しさに応えられる看護師になると心に決めたお話

「もう逃げない、絶対にうまくなる」患者さんの優しさに応えられる看護師になると心に決めたお話

「ありがとう。看護師と患者の物語」22話。Vルートを留置するのが苦手なわたしは何度も失敗して、わたしにはできない、やりたくないと思うようになっていました。そんな中、ある患者さんとのお話です。

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看護師資格を取ってはじめに配属された病棟で、わたしが体験した出来事です。
病棟に70代のおばあさんが入院されていました。
持病の影響でうまく口がうまく動かせなくて、

わたし「おはようございます。担当の三浦です」
患者さん「おはよう」
わたし「今日は天気がいいですね」
患者さん「そうだね」

という短い言葉での会話だけでした。

表情もそれほど変えられない方だったけれど、
わたしが「今日はお父さん(旦那さん)が来てくれて良かったね」と話すと、口元を緩ませてくれました。

持病のせいで、たびたび「誤嚥性肺炎」を起こしていたおばあちゃん。
抗生物質の点滴をすることも少なくありませんでした。
でも、わたしはVルートを留置するのがとても苦手。

わたし「入れられません。変わってください」
何度も失敗して、わたしにはできない、やりたくないと思うようになっていました。

先輩看護師「(おばあちゃん)抗生剤点滴開始になったからお願いします」
一瞬、ビクッとしたわたし。

失敗する・・・そう、思いながらも、「はい…わかりました…」と小さく返事をしました。

先輩看護師「行けるか?坂本さん、血管ないんだよな~」
「ああ、はい…」憂鬱な気持ちで、お部屋に向かいました。

わたし「坂本さん。熱が続いてるから点滴することになったの」
患者さん「はい。わかったよ」
そう言って、おばあちゃんは腕を出してくれました。

細い細い血管。一瞬、言葉を失い、ダメだと思いました。


わたし「ちょっと痛いけど、我慢しててね」
患者さん「はい」

震える手を押さえて針を進めたけれど、案の定逆血がない。少し探ってみたものの状況は同じ。

わたし「ごめんなさい。一度針を抜きますね」
患者さん「はい」

おばあちゃんは、全く同じ表情で横になっていました。
心の中で違う看護師を呼んで、代わってもらおう・・・
そう思った時、先生や同僚から「まだできないか~?」そう言われた時の、恥ずかしさと悔しさ、そして今ヘルプを出したら、できない子と思われるレッテルが嫌で・・・


わたし「・・・坂本さん、もう一度針をさしてもいい?」
患者さん「いいよ」

表情の変わらないおばあちゃん。
汗だくになりながら、震える手を抑えながら、もう一度違うところにトライしました。
(今度こそ!今度こそ!)

でも。
2度目も、3度目も。全く入らない。


(どうして、できないの…)
悔しくて、悔しくて、勝手に涙が溢れてきました。

「ごめんね。針、抜くね。」
「はい。」

「本当に、本当にごめんなさいね。」
「いいよ。」

「何度も、何度も、痛い思いさせてしまって、ごめんね。坂本さん」
「いいんだよ。」
「それでなくても、熱で辛いのにね。痛かったよね。」


その時、おばあちゃんが言いました。
「わたしが悪いんだ。」


わたしは耳を疑いました。
「え?」
「わたしが悪いんだよ。」
「え?坂本さんは何も悪くないんだよ。わたしが下手くそだから…」

おばあちゃん、続けました。
「わたしの血管がこんなんだから、あんたに大変な思いをさせてしまって。」

わたしはもう、涙が止まりませんでした。

わたし「違うの、森さん。わたしが勉強不足だったし、もっと早く他の人に助けてもらえば良かったんだよ。」

「いっぱいさしていいからね」
おばあちゃんはそう言って、少し笑いました。


わたしはナースステーションに泣きながら帰って、先輩に留置を代わってもらいました。
そして、「もう、逃げない。」そう、誓いました。
「絶対に、うまくなる。」
その日から、留置の経験を積むために、できるだけ代わってもらったり、先輩がやることを何度も見せてもらって、コツをたくさん身につけるようにしました。

おばあちゃんの気持ち。
患者さんの優しさ。

それに応えられるだけの看護師になろうと、心に決めたのです。
おばあちゃんの気持ちを、絶対に絶対に忘れない。
20年近くたった今も、わたしの心に深く刻まれ、わたしの看護師としての〈軸〉になっている出来事のひとつです。

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