infy [インフィ]

一枚のコンビニのクーポン券・・・『せん妄に苦しむ末期の癌患者さんの精一杯の感謝でした』

一枚のコンビニのクーポン券・・・『せん妄に苦しむ末期の癌患者さんの精一杯の感謝でした』

『泣かないで、お別れまでは笑顔で』。17話。終末期患者さんを担当させていただいた時のお話です。せん妄に苦しむ中、「感謝の気持ちを」と、一枚のクーポン券をくれた患者さん。そのクーポン券は私にとって何倍もの価値がある物でした。

| 1,029views
お気に入り追加 0
泣かないで、お別れまでは笑顔で
私は30歳の大腸癌・終末期の男性患者、中山さんの担当をしていました。
中山さんは会社員で忙しく病院になかなか行けなかったこともあり、すでに大学病院に入院し
て来た時には骨や脳と全身に転移が見られました。
入院当初は気丈にふるまい、放射線など行っていましたが、癌は日に日に猛威を振るい、中山
さんの体も心も蝕んでいきました。
私が終末期癌患者さんと関わる中で気を付けているのは、後悔ややり残したことを最小限にするサポートができるように意識すること。
しかし、中山さんはなかなか心を開いてくださらず、「しばらく会ってない田舎の親が元気か心配。でも心配かけるから、俺がもしも、の時になったら病院の方から連絡して下さい。」とだけ話してくれました。
それから脳転移の影響で元々の人格のままではいられなくなり...自ら発言することが少なかった中山さんの方から、次第にナースコールが頻繁に鳴るようになってきました。
その日は午後からせん妄気味になってきました。癌性疼痛が強くなってきたのです。「痛い!痛えよ~~!誰か~!」と興奮して叫ぶ中山さん...。
薬剤で疼痛コントロールをするなどして対応するしかありませんでした。
中山さんは、きっと誰にも弱音を吐かずに生きてきたのでしょう。せん妄状態になってから初めて「辛い」とか、「痛い」といった言葉をはっきり言うようになりました。
しかし、せん妄というものは不思議なもので、タイミングによっては嘘のように一瞬<普通の人格>に戻る事もあるのです。
ある日、ふと天井を見上げながら「あのさ、今日ってなんか予定あるんだっけ?」と尋ねる中山さん。私は「今日は土曜日なので特に検査もないですよ。どうされましたか?」と答えると、
一瞬ためらいながら「ほら、これさ...。さっき面会に来た会社の奴らが、俺が甘い物好きだから、ってくれたんだけど、俺今は使わないからもらってよ。看護師さん達、アイスでも買いなよ!いつも...頑張ってくれてるからさ。」とぎこちない照れ隠しをしたような笑顔で一枚の紙
を渡してくれました。
それはコンビニのアイスやお菓子のクーポン券でした。くしゃくしゃになっていて、明らかにもらったものではないとすぐに分かりました。
ここ1週間くらいは状態が悪かったため、面会の方も来ていなかったですし、その近くには中山さんの財布が開きっぱなしになって置いてありました。
きっと、せん妄が落ち着いた一瞬、冷静さを取り戻した中山さんが、私たち看護師に「何とかお礼をしたい」と精一杯用意したものだったのだと思います...。
それから数日後、医療者から田舎のご両親に連絡を入れ、意識があるぎりぎりの中で、なんとか両親とも面会・会話でき、その数日後にお亡くなりになられました。
せん妄の対応は簡単ではありませんし、私たち看護師もその対応に時に辛さや疲労を感じ、葛藤してしまう事は事実です。せん妄や不穏の対応が一晩中続いた夜勤は本当に倒れそうになってしまう事もあります。
しかし、中山さんとの関わりを通して、たとえ患者さんがどんなにせん妄・不穏状態となっても、しっかり向き合っていこう、感謝をしあえる対等な立場でいよう、最期までその方の気持ちを尊重しよう、と、改めてそう痛感させてくれました。
普通に生活していたら、ありふれた<たった一枚のクーポン>ですが、私にとって、その患者さんから頂いた(くしゃくしゃになった)クーポンは何倍もの価値があるものでした。「せん妄の中でも、感謝したいと思ってくれるような看護ができたのかな...。」とその患者さんのおかげで思う事が出来ました。
今でも、中山さんが痛み苦しむ姿を思い出し、心が痛みますが、せん妄の日々の中で見せてくれた、あの一瞬の笑顔と患者さんの気持ちに、胸がいっぱいになります。

【漫画】病を抱えた男性とその婚約者。命の終わりとはじまり【マンガ動画】

23 件

関連するまとめ

退院を叶えられず亡くなった患者さんからの手紙・・・『仕事のやりがいを見失っていた私に光を与えてくれました』

退院を叶えられず亡くなった患者さんからの手紙・・・『仕事のやりがいを見失っていた私に光を与えてくれました』

| 894views
大切な人の最期・・・『お母さん今までありがとう』

大切な人の最期・・・『お母さん今までありがとう』

| 4,517views
野球が大好きな少年を襲った突然の悲劇・・・『こんな体になるなら死んだほうがマシだ!』

野球が大好きな少年を襲った突然の悲劇・・・『こんな体になるなら死んだほうがマシだ!』

| 1,251views
まさかこんなことになるなんて・・・『交通事故で運ばれてきた重症患者は私の彼でした』

まさかこんなことになるなんて・・・『交通事故で運ばれてきた重症患者は私の彼でした』

| 3,979views
統合失調の患者さんが見せてくれた笑顔・・・『純粋で真っ直ぐ生きてきた患者さんに背中を押してもらったような気がしました』

統合失調の患者さんが見せてくれた笑顔・・・『純粋で真っ直ぐ生きてきた患者さんに背中を押してもらったような気がしました』

| 1,393views

このまとめのキーワード