infy [インフィ]

今も鮮明に思い出す初めての患者さん『患者さんに信頼されること、それに一生懸命応えたいという純粋な気持ちを知りました』

今も鮮明に思い出す初めての患者さん『患者さんに信頼されること、それに一生懸命応えたいという純粋な気持ちを知りました』

「ありがとう。看護師と患者の物語」19話。私には忘れられない患者さんがいます。今も私の携帯にはそのかたの名前と、携帯番号が残っています。

| 8,859views
お気に入り追加 0
私には忘れられない患者さんがいます。
今も私の携帯にはその方の名前と、携帯番号が残っています。

私は、実習先であった総合病院に就職しました。
あの当時、かっこいい!と憧れていた看護師さんと、肩を並べて働けることになったのです。

言葉にしにくいのですが、うれしいだけでなく、なんとも言えない優越感に浸っていた新人時代。
その日、あなたもそろそろ担当患者さんをつけようかね?と師長に言われて、ドキドキしながら、患者さんを受け入れる準備をしました。

病棟に来られた患者さん。
白髪混じりの髭面、四角い頭に、腕毛ぎっしり、70代後半のお歳の割に背の高い、脚の長い男性でした。隣には少し腰の曲がったニコニコした女性がいました。

初めての担当患者さん。
その患者さんのことを、私の中だけで、「かっちゃん」と呼ぶことにしました。

かっちゃんは悪化した肝硬変でした。
そして、下痢が続いていました。

「はあ、また松井さんだ。たぶん、うんちゃんでしょ〜。」
ナースコールが鳴るたび、ほぼため息のような声が、スタッフの中で聞こえ始めました。

かっちゃんは本当に頻回な下痢がでていました。
感染症もあり、ただでさえ忙しい業務のなか、感染者の対策として、エプロン、マスク、消毒など、とにかく時間がとられ、スタッフの中でやれやれという雰囲気が漂っていました。

無駄に元気な私は、かっちゃんのナースコールがなると、「はい、わたしいきまーす!」すぐに立ち上がりました。

「ごめんよー。またうんちゃんがでたんよー。ほいでも、ぎりぎりまでまったんよー。ほいでねー……」

他のスタッフがかっちゃんの部屋に行きたがらないのは、奥様の機関銃のような一方的なおしゃべりがなかなか終わらない、というのもありました。

奥様のことをスタッフは、お母さんと呼んでいました。
ちなみにお母さんは排便のこと、うんちゃんと呼んでいました。
かっちゃんは少しでもお尻に排便がつかないように、気を使ってくれているのか、必死にベッド柵につかまり、側臥位で耐えています。

少し不思議なご夫婦。
かっちゃんは無口だけど優しくて、お母さんは真逆にずっとおしゃべりしてくれる。
他の看護師が苦手と思っていても、わたしはこの初めての担当患者さんが大好きになりました。

かっちゃんは、少しずつ回復し、いよいよ退院になりました。
かっちゃんは寝ていたらわからなかった、背の高い姿をみせてくれて、本当に嬉しかったです。

不器用だけど優しくて癒される、大好きなかっちゃん、退院おめでとう。
明日からはちょっぴりさみしいよ。

退院したかっちゃんでしたが、外来の日は、毎回病棟に上がってきました。

「お父さんがどうしても会いたいゆーけー。ほいでもねー…。」
機関銃のお母さんはとまりません。

私は勤務中でもあるし、お母さんのおしゃべりを遮ると、私を穏やかにじっとみてくれるかっちゃんの手をぎゅっと握り、「松井さん、元気なお顔になってますよ。ありがとうね。また会いにきてくださいね。」とだけ伝えました。

かっちゃんは、オゥ!と右手を挙げてくれました。

また別の日の外来の帰り、お母さんが、「あのね〜、これ。一回お家に遊びにきてくれんかねー。」と小さな紙を白衣のポケットに入れました。

どうしよう。患者さんとのプライベートなお付き合いはタブーでした。
その後、こっそり紙を見ると、小さな紙切に震えた文字で「坂本さん、遊びにきてください」と書いてありました。

それをみた瞬間、かっちゃんの字だ!と分かりました。
右手に麻痺があり、なかなか力が入らなかったかっちゃん。
すごい!リハビリ頑張ってるんだ。そういえばこの前も右手を挙げて挨拶してくれていたなあ。
よし!会いに行こう。私の心は決まりました。

お休みを利用して、かっちゃんのお家まで自転車でむかいました。
海沿いの潮の香りをたくさん感じ、お日様の光をたくさん浴び、日々のストレスを洗い流されていきます。

待ち合わせの場所につくと、オゥ!相変わらずかっちゃんは右手を挙げてにこりとしました。
28 件

関連するまとめ

妊娠中に見つかったのは悪性の腫瘍。『信じる言葉は「絶対大丈夫」という言葉と想い』

妊娠中に見つかったのは悪性の腫瘍。『信じる言葉は「絶対大丈夫」という言葉と想い』

| 2,623views
奥様と患者さんと私と・・・『居てくれてよかったよ。最後までありがとう。』

奥様と患者さんと私と・・・『居てくれてよかったよ。最後までありがとう。』

| 6,153views
コインロッカーから保護された2500gのさくらちゃん『何か残してあげられるように書いたさくらちゃんへの手紙』

コインロッカーから保護された2500gのさくらちゃん『何か残してあげられるように書いたさくらちゃんへの手紙』

| 8,975views
大切な大切な思い出『私はこれからも1人でも多くの人を笑顔にできるように、生きていきたい。』

大切な大切な思い出『私はこれからも1人でも多くの人を笑顔にできるように、生きていきたい。』

| 6,129views
ふわっと薫るお線香の匂い『おばあちゃん、本当にありがとう。沢山の強さと優しさを教えてくれてありがとう』

ふわっと薫るお線香の匂い『おばあちゃん、本当にありがとう。沢山の強さと優しさを教えてくれてありがとう』

| 7,222views

このまとめのキーワード