infy [インフィ]

今も鮮明に思い出す初めての患者さん『患者さんに信頼されること、それに一生懸命応えたいという純粋な気持ちを知りました』

今も鮮明に思い出す初めての患者さん『患者さんに信頼されること、それに一生懸命応えたいという純粋な気持ちを知りました』

「ありがとう。看護師と患者の物語」19話。私には忘れられない患者さんがいます。今も私の携帯にはそのかたの名前と、携帯番号が残っています。

| 4,756views
お気に入り追加 0
私には忘れられない患者さんがいます。
今も私の携帯にはその方の名前と、携帯番号が残っています。

私は、実習先であった総合病院に就職しました。
あの当時、かっこいい!と憧れていた看護師さんと、肩を並べて働けることになったのです。

言葉にしにくいのですが、うれしいだけでなく、なんとも言えない優越感に浸っていた新人時代。
その日、あなたもそろそろ担当患者さんをつけようかね?と師長に言われて、ドキドキしながら、患者さんを受け入れる準備をしました。

病棟に来られた患者さん。
白髪混じりの髭面、四角い頭に、腕毛ぎっしり、70代後半のお歳の割に背の高い、脚の長い男性でした。隣には少し腰の曲がったニコニコした女性がいました。

初めての担当患者さん。
その患者さんのことを、私の中だけで、「かっちゃん」と呼ぶことにしました。

かっちゃんは悪化した肝硬変でした。
そして、下痢が続いていました。

「はあ、また松井さんだ。たぶん、うんちゃんでしょ〜。」
ナースコールが鳴るたび、ほぼため息のような声が、スタッフの中で聞こえ始めました。

かっちゃんは本当に頻回な下痢がでていました。
感染症もあり、ただでさえ忙しい業務のなか、感染者の対策として、エプロン、マスク、消毒など、とにかく時間がとられ、スタッフの中でやれやれという雰囲気が漂っていました。

無駄に元気な私は、かっちゃんのナースコールがなると、「はい、わたしいきまーす!」すぐに立ち上がりました。

「ごめんよー。またうんちゃんがでたんよー。ほいでも、ぎりぎりまでまったんよー。ほいでねー……」

他のスタッフがかっちゃんの部屋に行きたがらないのは、奥様の機関銃のような一方的なおしゃべりがなかなか終わらない、というのもありました。

奥様のことをスタッフは、お母さんと呼んでいました。
ちなみにお母さんは排便のこと、うんちゃんと呼んでいました。
かっちゃんは少しでもお尻に排便がつかないように、気を使ってくれているのか、必死にベッド柵につかまり、側臥位で耐えています。

少し不思議なご夫婦。
かっちゃんは無口だけど優しくて、お母さんは真逆にずっとおしゃべりしてくれる。
他の看護師が苦手と思っていても、わたしはこの初めての担当患者さんが大好きになりました。

かっちゃんは、少しずつ回復し、いよいよ退院になりました。
かっちゃんは寝ていたらわからなかった、背の高い姿をみせてくれて、本当に嬉しかったです。

不器用だけど優しくて癒される、大好きなかっちゃん、退院おめでとう。
明日からはちょっぴりさみしいよ。

退院したかっちゃんでしたが、外来の日は、毎回病棟に上がってきました。

「お父さんがどうしても会いたいゆーけー。ほいでもねー…。」
機関銃のお母さんはとまりません。

私は勤務中でもあるし、お母さんのおしゃべりを遮ると、私を穏やかにじっとみてくれるかっちゃんの手をぎゅっと握り、「松井さん、元気なお顔になってますよ。ありがとうね。また会いにきてくださいね。」とだけ伝えました。

かっちゃんは、オゥ!と右手を挙げてくれました。

また別の日の外来の帰り、お母さんが、「あのね〜、これ。一回お家に遊びにきてくれんかねー。」と小さな紙を白衣のポケットに入れました。

どうしよう。患者さんとのプライベートなお付き合いはタブーでした。
その後、こっそり紙を見ると、小さな紙切に震えた文字で「坂本さん、遊びにきてください」と書いてありました。

それをみた瞬間、かっちゃんの字だ!と分かりました。
右手に麻痺があり、なかなか力が入らなかったかっちゃん。
すごい!リハビリ頑張ってるんだ。そういえばこの前も右手を挙げて挨拶してくれていたなあ。
よし!会いに行こう。私の心は決まりました。

お休みを利用して、かっちゃんのお家まで自転車でむかいました。
海沿いの潮の香りをたくさん感じ、お日様の光をたくさん浴び、日々のストレスを洗い流されていきます。

待ち合わせの場所につくと、オゥ!相変わらずかっちゃんは右手を挙げてにこりとしました。
28 件

関連するまとめ

私の手を握り、その手をさすりながら、「心残りだったんだ、良かった!会えて良かった!」

私の手を握り、その手をさすりながら、「心残りだったんだ、良かった!会えて良かった!」

| 1,140views
ゆっくりと桜の下で深呼吸をしていた姿が今でも目に焼き付いて離れない・・・

ゆっくりと桜の下で深呼吸をしていた姿が今でも目に焼き付いて離れない・・・

| 4,664views
終末期の患者さんの想い『誰でも死ぬのって怖いよな。でも俺には待っている人がいるから、怖くないんだ』

終末期の患者さんの想い『誰でも死ぬのって怖いよな。でも俺には待っている人がいるから、怖くないんだ』

| 6,951views
消息不明だった父と娘の最後の再会『ご・・め・・ん・・な・・あいこ』

消息不明だった父と娘の最後の再会『ご・・め・・ん・・な・・あいこ』

| 6,890views
最愛の娘にひと目会いたい・・・『最後に会いたいな~無理かな~ケンカして、叩いてしまったからな~』

最愛の娘にひと目会いたい・・・『最後に会いたいな~無理かな~ケンカして、叩いてしまったからな~』

| 10,561views

このまとめのキーワード