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イラストが命を『点滴のテープの種が芽を出し、花を咲かせ、大輪になるころまでに自分は必ず病気を治すんだ!』

イラストが命を『点滴のテープの種が芽を出し、花を咲かせ、大輪になるころまでに自分は必ず病気を治すんだ!』

「ありがとう。看護師と患者の物語」23話。看護師2年目になり、病院のことや病気のことが何となくわかり始めてきた頃、10歳になる女の子(あおいちゃん)の担当になりました。あおいちゃんは小児がんでした。あおいちゃんは、ずっと点滴につながれ、自由がなく、魂も萎んでいるように私には見えました。

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私が小児科で働いていた時のことです。
看護師2年目になり、病院のことや病気のことが何となくわかり始めてきた頃、10歳になる女の子(あおいちゃん)の担当になりました。あおいちゃんは小児がんでした。


あおいちゃんは、ずっと点滴につながれ、自由がなく、魂も萎んでいるように私には見えました。
入院生活が長い為、ストレスもたまりやすく、すぐに泣いたり喚いたりすることがある女の子でした。


そしてあおいちゃんは点滴や注射が大っ嫌いでした。
小児科の患者さんは経過が長く、性格形成の時期を病院で過ごすことになるため、どうしても大人から甘やかされてしまい、わがままな子が多い傾向にありました。あおいちゃんもそのタイプの患者さんだろうと思っていました。

その日は、点滴の差し替えの処置がありました。
何人もの看護師と一緒に来室しました。

「あおいちゃん、ごめんねー、嫌いなことを看護師さんやりにきたよ…。いやだよねー、看護師さんもいやだよ。」

「やだ!やだ!やめてー!やりたくない!点滴なんかやりたくない!」

泣き叫ぶあおいちゃんに看護師達はなす術がなく、ただ、なぐさめてこんこんと説得させるしかありませんでした。けれど、あおいちゃんはどうしても必要な処置なのに、言葉では納得せず、仕方なく毎回何人もの看護師が取り囲んで、点滴の差し替えをしていました。


あおいちゃんとそんなにまだ関係ができていなかった私は、あおいちゃんがなぜそんなに点滴を嫌がるのかわかりませんでした。

次の日、いつものようにあおいちゃんの所に検温にいきました。

「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「ううん、眠れなかった…。」
「え、どうかしたの?どこか痛かった?」
「あのね、いつも新しい点滴になるとね。点滴がよそ者みたいになって、夜ピカピカに光ってね。わかんないけど、眠ろうとするとグルグル!て体を縛って来るの。それで私動けなくなって。ものすごく怖い…。」


毎日そばにいる私にあおいちゃんは少しずつ気持ちを話すようになってくれました。
何故だか、点滴の差し替えの後、夜に怖い夢を見てしまうこと。本当に怖くて金縛りみたいになって声も出なくなること…。


私は考えました。何故、怖い夢を見るのは点滴の差し替えの後なんだろう。
そして、それがあるからなおさらあおいちゃんは点滴が嫌いなんだ、これは悪循環だと。
そして、思いつきました。私には一つ心当たりがあったのです。

次の点滴の差し替えの日、私は一人であおいちゃんのお部屋に行きました。

「あおいちゃん、今日はね、看護師さんと二人で頑張るんだよ。あおいちゃんがやりたくないなら看護師さんはいつまでも待つつもりで来たよ。今日は急いでみんなで抑えたりしない、たくさんで取り囲んだりもしない。だから二人で頑張るんだよ。」

「やだ、やだ、やりたくないよ…。」

「点滴はね、あおいちゃんが病気を治すための大事なお薬が入っているの。それをしないということは、病気が治るのを先延ばしにしてしまうことなんだよ。私はあおいちゃんが自分で病気を治す!ていう強い気持ちを持ってもらいたい。だから、逃げないでほしい。看護師さんも無理やりしない。」

あおいちゃんはしばらく考えて、
「うん、わかった。」
と手を伸ばしてベッドに横になりました。

点滴の差し替えはいままでが嘘のようにスムーズに終了しました。
あおいちゃんが成長していることに喜びを感じると同時に、私はあおいちゃんを色眼鏡で今まで見ていたことを反省しました。


私はあおいちゃんが頑張った証に、点滴の固定のテープに
『あおいちゃんが頑張った日 ○/○』と記入し、小さな種のイラストを描きました。

次の日、あおいちゃんは怖い夢も金縛りにもあいませんでした。
やっぱりそうか…あおいちゃんは看護師に抑制されることが恐怖だったのです。


その日からあおいちゃんは少しずつ変わりました。
点滴の差し替えは必ず私がすることになり、私は固定のテープのイラストも黒い粒から小さな芽を出すイラストに変えました。


毎回点滴の差し替えをするごとにイラストも変え、ふたばを描き、ツルを伸ばし、つぼみを描き、毎回少しずつイラストを成長させていきました。そして大輪の花を咲かせる頃、あおいちゃんに一時外泊の許可がでました。

点滴を外し、すっかり身軽になったあおいちゃんはどこか自信に満ちていました。
荷造りをし、挨拶をしに来てくれたあおいちゃんのお母さんが、私を呼び寄せました。


「看護師さん、本当にありがとうございます。
あおいは看護師さんに出会うまでとても病気に後ろ向きでした。
未来への希望も夢もなく、ただただ受け身で、不満を口にすることしかありませんでした。

けれど、看護師がお話をしてくれたあと、点滴のテープの種が芽を出し、花を咲かせ、大輪になるころまでに自分は必ず病気を治すんだ!と気持ちをとても前向きにしていきました。

イラストのお花の成長とともにあの子もとても成長しました。自分で治す!という強い気持ちは、あの子の自主性を伸ばし、そして免疫力をどんどん高めていくことで、結果としてがん細胞に勝っていけたのだと思います。本当にありがとうございました。」



泣きながら話すあおいちゃんのお母さんにぎゅっと手を握りしめられ、私も涙を浮かべながら、何度もうなづきました。

それから数年後、あおいちゃんは看護学校に入学しました。
外来通院するごとに私に会いに来てくれるあおいちゃん。
あおいちゃんが看護師を目指すと聞いた時はどこか恥ずかしく、嬉しくなりました。


そしてあおいちゃんは、
「看護師さん、私ね、これ宝物にしてるんだあ。辛い時はこのノートを開くの。そしたらムクムクと元気が湧いてくるんだよ!」

と、見せてくれたノートを開くと、沢山の点滴のテープが貼ってありました。
ノートをめくるたび、少しずつ成長する芽は、最後には大輪の花を咲かせていました。


(いつか一緒に働く日が来るかな?とってもたのしみにしているよ。あおいちゃん!)
私はあおいちゃんがステキな看護師さんになると確信しています。

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